、あの……客受けの六畳の真中処《まんなかどころ》へ、二人、お太鼓の帯で行儀よく、まるで色紙へ乗ったようでね、ける、かな、と端然《きちん》と坐ってると、お組が、精々気を利かしたつもりか何かで、お茶台に載っかって、ちゃんとお茶がその前へ二つ並んでいます……
 お才さんは見えなかった。
 ところが、お組があれだろう。男なら、骨《こつ》でなり、勘でなり、そこは跋《ばつ》も合わせようが、何の事は無い、松葉ヶ|谷《やつ》の尼寺へ、振袖の若衆《わかしゅ》が二人、という、てんで見当の着かないお客に、不意に二階から下りて坐られたんだから、ヤ、妙な顔で、きょとんとして。……
 次の茶の室《ま》から、敷居際まで、擦出《ずりだ》して、煙草盆《たばこぼん》にね、一つ火を入れたのを前に置いて、御丁寧に、もう一つ火入《ひいれ》に火を入れている処じゃ無いか。
 座蒲団《ざぶとん》は夏冬とも残らず二階、長火鉢の前の、そいつは出せず失礼と、……煙草盆を揃えて出した上へ、団扇《うちわ》を二本の、もうちっとそのままにしておいたら、お年玉の手拭《てぬぐい》の残ったのを、上包みのまま持って出て、別々に差出そうという様子でいる。

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