(何は、何だっけ。)
(お組さん、……ええ、火鉢の許《とこ》に居てよ。でも、もうあの通りでしょう、坐眠《いねむり》をしているかも分らないわ。)
(三輪ちゃんか、ちょっと見てあげてくれないか、はばかりが分らないのかも知れないぜ。)と一人気を着けた。
(ええ、)
てッたが、もう可恐《こわ》くッて一人では立てません。
もう一ツ、袂が重くなって、
(一所に……兄さん、)
と耳の許《とこ》へ口をつける……頬辺《ほっぺた》が冷《ひや》りとするわね、鬢《びん》の毛で。それだけ内証《ないしょ》のつもりだろうが、あの娘《こ》だもの、皆《みんな》、聞えるよ。
(ちょいと、失礼。)
(奥方に言いつけますぜ。)と誰か笑った、が、それも陰気さ。」
十八
「暗い階子《はしご》をすっと抜ける、と階下《した》は電燈《でんき》だ、お三輪は颯《さっ》と美しい。
見ると、どうです……二階から下して来て、足の踏場も無かった、食物、道具なんか、掃いたように綺麗に片附いて、門《かど》を閉めた。節穴へ明《あかり》が漏れて、古いから森のよう、下した蔀《しとみ》を背後《うしろ》にして、上框《あがりがまち》の
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