寂然《しん》と寝ているのが、野原の辻堂に紙帳《しちょう》でも掛けた風で、恐しくさびれたものだ、と言ったっけ。
その何だよ。……
蚊帳の前へ。」
「ちょいと、」と梅次は、痙攣《ひッつ》るばかり目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って膝をずらした。
「大丈夫、大丈夫、」
と民弥はまたわずかに笑《えみ》を含みつつ、
「仲の町越しに、こちらの二階から見えるんだから、丈が……そうさ、人にして二尺ばかり、一寸法師ッか無いけれど、何、普通で、離れているから小さいんだろう。……婆さんが一人。
大きな蜘蛛《くも》が下りたように、行燈《あんどう》の前へ、もそりと出て、蚊帳の前をスーと通る。……擦れ擦れに見えたけれども、縁側を歩行《ある》いたろう。が、宙を行《ゆ》くようだ。それも、黒雲の中にある、青田のへりでも伝うッて形でね。
京町の角の方から、水道尻の方へ、やがて、暗い処へ入って隠れたのは、障子の陰か、戸袋の背後《うしろ》になったらしい。
遣手《やりて》です、風が、大引前《おおびけまえ》を見廻ったろう。
それが見えると、鉄棒《かなぼう》が遠くを廻った。……カラカラ、……カン
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