カン、何だか妙だね、あの、どうか言うんだっけ。」
「チャン、カン、チャンカン……ですか。」と民弥の顔を瞻《みつ》めながら、軽く火箸《ひばし》を動かしたが、鉄瓶にカタンと当った。
「あ、」
と言って、はっと息して、
「ああ、吃驚《びっくり》した。」
「ト今度は、その音に、ずッと引着けられて、廓中《くるわじゅう》の暗い処、暗い処へ、連れて歩行《ある》くか、と思うばかり。」
十七
「話してる私も黙れば、聞いている人たちも、ぴったり静まる……
と遣手《やりて》らしい三階の婆々《ばばあ》の影が、蚊帳の前を真暗《まっくら》な空の高い処で見えなくなる、――とやがてだ。
二三度続け様に、水道尻居まわりの屋根近《やねぢか》な、低い処で、鴉《からす》が啼《な》いた。夜烏も大引けの暗夜《やみ》だろう、可厭《いや》な声といったら。
すたすたとけたたましい出入りの跫音《あしおと》、四ツ五ツ入乱れて、駆出す……馳込《はしりこ》むといったように、しかも、なすりつけたように、滅入《めい》って、寮の門《かど》が慌《あわただ》しい。
私の袂《たもと》を、じっと引張って、
(あれ、照吉|姉《ねえ
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