かった。……
 変じゃないか。」

       十六

 しばらくして、
「お三輪が話した、照吉が、京都の大学へ行ってる弟の願懸けに行って、堂の前で気落《きおち》した、……どこだか知らないが、谷中の辺で、杉の樹の高い処から鳥が落ちて死んだ、というのを聞いた時、……何の鳥とも、照吉は、それまでは見なかったんだそうだけれども、私は何だよ……
 思わず、心が、先刻《さっき》の暗がり坂の中途へ行って、そのおかしな婆々《ばばあ》が、荒縄でぶら提げていた、腐った烏の事を思ったんだ。照吉のも、同じ烏じゃ無かろうかと……それに、可なり大きな鳥だというし……いいや!」
 梅次のその顔色《かおつき》を見て、民弥は圧《おさ》えるように、
「まさか、そんな事はあるまいが、ただそこへ考えが打撞《ぶつか》っただけなんだよ。……
 だから、さあ、可厭《いや》な気持だから、もう話さないでおきたかったんだけれども、話しかけた事じゃあるし、どうして、中途から弁舌で筋を引替えようという、器用なんじゃ無い。まじまじ遣《や》った……もっとも荒ッぽく……それでも、烏の死骸を持っていたッて、そう云うと、皆《みんな》が妙に気にした
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