》の人相を、一人で引受けた、という風なものだっけ。
 吉原へ行《ゆ》くと云う、彼処等《あすこいら》じゃ、成程頼みそうな昔の産婆だ、とその時、そう思ったから、……後で蔦屋《つたや》の二階で、皆《みんな》に話をする時も、フッとお三輪に、(どこかお産はあるか)って聞いたんだ。
 もうそう信じていた。
 でも、何だか、肝《かん》が起《た》って、じりじりしてね、おかしく自分でも自棄《やけ》になって、
(貸してやろう、乗っといで。)
(柔順《すなお》なものじゃ、や、よう肯《き》かしゃれたの……おおおお。)と云って臀《しり》を動かす。
 変なものをね、その腰へ当てた手にぶら下げているじゃないか。――烏の死骸《しがい》だ。
(何にする、そんなもの。)
(禁厭《まじない》にする大事なものいの、これが荷物じゃ、火の車に乗せますが、やあ、殿。)
(堪《たま》らない! 臭くって、)
 と手巾《ハンケチ》へ唾を吐いて、
(車賃は払っておくよ。)
 で、フイと分れたが、さあ、踏切を越すと、今の車はどこへ行ったか、そこに待っている筈《はず》のが、まるで分らない。似たやつどころか、また近所に、一台も腕車《くるま》が無
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