いて寄る。
なぜか、その人を咒《のろ》ったような挙動《しぐさ》が、無体に癪《しゃく》に障ったろう。
(何の車?)と苛々《いらいら》としてこちらも引返した。
(火の車。)
じりじりとまた寄った。
(何の車?)
(火の車、)
(火の車がどうした。)
とちょうど寄合わせた時、少し口惜《くやし》いようにも思って、突懸《つっかか》って言った、が、胸を圧《おさ》えた。可厭《いや》なその臭気《におい》ったら無いもの。
(私《わし》に貸さい、の、あのや、燃え搦《から》まった車で、逢魔《おうま》ヶ時に、真北へさして、くるくる舞いして行《ゆ》かさるは、少《わか》い身に可《よ》うないがいや、の、殿、……私《わし》に貸さい。車借りて飛ばしたい、えらく今日は足がなえたや、やれ、の、草臥《くたび》れたいの、やれやれ、)
と言って、握拳《にぎりこぶし》で腰をたたくのが、突着けて、ちょうど私の胸の処……というものは、あの、急な狭い坂を、奴《やつ》は上の方に居るんだろう。その上、よく見ると、尻をこっちへ、向うむきに屈《かが》んで、何か言っている。
癩《かったい》に棒打《ぼううち》、喧嘩《けんか》にもならんでは
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