じゃないわ。そして、先生と云うものよ。」
「誰をさ。」
「皆さんをさ、先生とか、あの、貴方《あなた》とか、そうじゃなくって。誰方《どなた》も身分のある方なのよ。」
「そうかねえ。」
「そうかじゃありませんよ。才ちゃんてば。……それをさ、民さんだの、お前《ま》はんだのって……私は聞いていてはらはらするわ、お気を注《つ》けなさいなね。」
「ああ、そうだね、」
と納得はしたものの、まだ何《なん》だか、不心服らしい顔色《かおつき》で、
「だって可《い》いやね、皆さんが、お化《ばけ》の御連中なんだから。」
習慣《ならわし》で調子が高い、ごく内《ない》の話のつもりが、処々、どころでない。半ば以上は二階へ届く。
一同くすくすと笑った。
民弥は苦笑したのである。
その時、梅次の名も聞えたので、いつの間にか、縁の幕の仮名の意味が、誰言うとなく自然《おのず》と通じて、投遣《なげや》りな投放《むすびばな》しに、中を結んだ、紅《べに》、浅葱《あさぎ》の細い色さえ、床の間の籠《かご》に投込んだ、白い常夏《とこなつ》の花とともに、ものは言わぬが談話《はなし》の席へ、仄《ほのか》な俤《おもかげ》に立ってい
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