めく白い素足で、畳触《たたみざわ》りを、ちと荒く、ふいと座を起《た》ったものである。
待遇《あいしらい》に二つ三つ、続けて話掛けていたお才が、唐突《だしぬけ》に腰を折られて、
「あいよ。」
で、軽く衣紋《えもん》を圧《おさ》え、痩《や》せた膝で振り返ると、娘はもう、肩のあたりまで、階子段《はしごだん》に白地の中形を沈めていた。
「ちょっと、」……と手繰って言ったと思うと、結綿《ゆいわた》がもう階下《した》へ。
「何だい。」とお才は、いけぞんざい。階子段の欄干《てすり》から俯向《うつむ》けに覗《のぞ》いたが、そこから目薬は注《さ》せなそうで、急いで降りた。
「何だねえ。」
「才ちゃんや。」
と段の下の六畳の、長火鉢の前に立ったまま、ぱっちりとした目許《めもと》と、可愛らしい口許で、引着けるようにして、
「何だじゃないわ。お気を着けなさいよ。梅次|姉《ねえ》さんの事なんか言って、兄さんが他《ほか》の方に極《きまり》が悪いわ。」
「ううん。」と色気の無い頷《うなず》き方。
「そうだっけ。まあ、可《い》いやね。」
「可《よ》かない事よ……私は困っちまう。」
「何だねえ、高慢な。」
「高慢
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