》。」
時に敷居の外の、その長《なが》六畳の、成りたけ暗そうな壁の処へ、紅入友染《べにいりゆうぜん》の薄いお太鼓を押着《おッつ》けて、小さくなったが、顔の明《あかる》い、眉の判然《はっきり》した、ふっくり結綿《ゆいわた》に緋《ひ》の角絞《つのしぼ》りで、柄も中形も大きいが、お三輪といって今年が七《しち》、年よりはまだ仇気《あどけ》ない、このお才の娘分。吉野町《よしのちょう》辺の裁縫《おしごと》の師匠へ行《ゆ》くのが、今日は特別、平時《いつも》と違って、途中の金貸の軒に居る、馴染《なじみ》の鸚鵡《おうむ》の前へも立たず……黙って奥山の活動写真へも外《そ》れないで、早めに帰って来て、紫の包も解かずに、……
「道理で雨が霽《あが》ったよ。」
嬉々《いそいそ》客設けの手伝いした、その――
二
お三輪がちょうど、そうやって晴がましそうに茶を注《つ》いでいた処。――甘露梅の今のを聞くと、はッとしたらしく、顔を据えたが、拗《す》ねたという身で土瓶をトン。
「才《さあ》ちゃん。」
と背後《うしろ》からお才を呼んで、前垂《まえだれ》の端はきりりとしながら、褄《つま》の媚《なま》
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