可恐《おそろ》しく謙遜《けんそん》する。
人々は促した。――
十三
「――気が射《さ》したから、私は話すまい、と思った。けれども、行懸《ゆきがか》り[#ルビの「ゆきがか」は底本では「ゆきかが」]で、揉消《もみけ》すわけにも行かなかったもんだから、そこで何だ。途中で見たものの事を饒舌《しゃべ》ったが、」
と民弥は、西片町《にしかたまち》のその住居《すまい》で、安価《やす》い竈《かまど》を背負《しょ》って立つ、所帯の相棒、すなわち梅次に仔細《しさい》を語る。……会のあった明晩《あくるばん》で、夏の日を、日が暮れてからやっと帰ったが、時候あたりで、一日寝ていたとも思われる。顔色も悪く、気も沈んで、太《いた》く疲れているらしかった。
寒気がするとて、茶の間の火鉢に対向《さしむか》いで、
「はじめはそんな席へ持出すのに、余り栄《は》えな過ぎると思ったが、――先刻《さっき》から言った通り――三輪坊《みいぼう》がしたお照さんのその話を聞いてからは、自分だけかも知れないが、何とも言われないほど胸が鬱《ふさ》いだよ。第一、三輪坊が、どんなにか、可恐《こわ》がるだろう、と思ってね。
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