い、背《せい》のすらりとした人よ。水菓子屋の御新造《ごしん》さんって、皆《みんな》がそう言ったの。
ですもの、照吉さんは芸者だけれど、弟さんは若旦那だわね。
また煩いついたのよ、困るわねえ。
そして長いの、どっと床に就いてさ。皆《みんな》、お気の毒だって、やっぱり今の、あの海老屋の寮で養生をして、同《おんな》じ部屋だわ。まわり縁の突当りの、丸窓の付いた、池に向いた六畳よ。
照吉さんも家業があるでしょう、だもんですから、ちょいとの隙《ひま》も、夜《よ》の目も寝ないで、附《つき》っ切りに看病して、それでもちっとも快《よ》くならずに、段々|塩梅《あんばい》が悪くなって、花が散る頃だったわ、お医者様もね、もうね。」
と言う、ちっと切なそうな息づかい。
十二
お三輪は疲れて、そして遣瀬《やるせ》なさそうな声をして、
「才《さあ》ちゃんを呼んで来ましょうか、私は上手に話せませんもの。」と言う、覚束《おぼつか》ない娘の口から語る、照吉の身の上は、一層夜露に身に染みたのであった。
「可《い》いよ、三輪《みい》ちゃんで沢山だ。お話し、お話し、」と雑貨店主、沢岡が激ました。
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