人見知《ひとみしり》をしない調子で、
「そうじゃないの、照吉さんのは弟さんの身代りになったんですって。――弟さんはね、先生、自分でも隠してだし、照吉さんも成りたけ誰にも知らさないようにしているんだけれど、こんな処の人のようじゃないの。
 学校へ通って、学問をしてね、よく出来るのよ。そして、今じゃ、あの京都の大学へ行っているんです。卒業すれば立派な先生になるんだわ、ねえ。先生。
 姉さんもそればっかり楽《たのし》みにして、地道に稼いじゃ、お金子《かね》を送っているんでしょう。……ええ、あの、」
 と心得たように、しかも他愛の無さそうに、
「水菓子屋の方は、あれは照吉さんの母《おっか》さんがはじめた店を、その母《おっか》さんが亡くなって、姉弟《きょうだい》二人ぼっちになって、しようが無いもんですから、上州の方の遠い親類の人に来てもらって、それが世話をするんですけれど、どうせ、あれだわ。田舎を打棄《うっちゃ》って、こんな処へ来て暮そうって人なんだから、人は好《い》いけれども商売は立行《たちゆ》かないで、照吉さんには、あの、重荷に小附《こづけ》とかですってさ。ですから、お金子でも何でも、皆《み
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