だわねえ。――兄さん、」
 と、話に実が入《い》るとつい忘れる。
「可哀相よ。そして、いつでもそうなの、見舞に行《ゆ》くたんびに(さようなら)……」

       十一

「それはもう、きれいに断念《あきら》めたものなの、……そしてね、幾日《いくか》の何時頃に死ぬんだって――言うんですとさ、――それが延びたから今日はきっと、あれだって、また幾日の何時頃だって、どうしてでしょう。死ぬのを待っているようなの。
 ですからね、照吉さんのは、気病《きやみ》だって。それから大事の人の生命《いのち》に代って身代《みがわり》に死ぬんですって。」
「身代り、」と聞返した時、どのかまた明《あかり》の加減で、民弥の帷子《かたびら》が薄く映った。且つそれよりも、お三輪の手絡《てがら》が、くっきりと燃ゆるように、声も強い色に出て、
「ええ、」
 と言う、目も※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》られた気勢《けはい》である。
「この方が怪談じゃ、」と魯智深が寂しい声。堀子爵が居直って、
「誰の身代りだな、情人《いいひと》のか。」
「あら、情人《いいひと》なら兄さんですわ、」
 と臆《おく》せず……
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