《せんせい》も綱曳《つなびき》でいらっしゃったんですの。でもね、ちっとも分りませんとさ。そしてね、照吉さんが、病気になった最初《はじめ》っから、なぜですか、もうちゃんと覚悟をして、清川を出て寮へ引移るのにも、手廻りのものを、きちんと片附けて、この春から記《つ》けるようにしたっちゃ、威張っていた、小遣帳《こづかいちょう》の、あの、蜜豆《みつまめ》とした処なんか、棒を引いたんですってね。才ちゃんはそう言って、話して、笑いながら、ほろほろ涙を落すのよ。
 いつ煩っても、ごまかして薬をのんだ事のない人が、その癖、あの、……今度ばかりは、掻巻《かいまき》に凭懸《よりかか》っていて、お猪口《ちょこ》を頂いて飲むんだわ。それがなお心細いんだって、皆《みんな》そう云うの。
 私も、あの、手に持って飲まして来ます。
(三輪《みい》ちゃん、さようなら。)って俯向《うつむ》くんです、……枕《まくら》にこぼれて束ね切れないの、私はね、櫛《くし》を抜いて密《そっ》と解かしたのよ……雲脂《ふけ》なんかちっとも無いの、するする綺麗ですわ、そして煩ってから余計に殖《ふ》えたようよ……髪ばかり長くなって、段々命が縮むん
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