たか、急に声も低くなって、
「芸者です、今じゃ、あの、一番綺麗な人なんです、芸も可《い》いの。可哀相だわ、大変に塩梅《あんばい》が悪くって。それだもんですから、内は角町《すみちょう》の水菓子屋で、出ているのは清川(引手茶屋)なんですけれど、どちらも狭いし、それに、こんな処でしょう、落着いて養生も出来ないからって……ここでも大切な姉《ねえ》さんだわ。ですから皆《みんな》で心配して、海老屋でもしんせつにそう云ってね、四五日前から、寮で大事にしているんですよ。」
「そうかい、ちっとも知らなかった。」と民弥はうっかりしたように言う。
「夜伽《よとぎ》をするんじゃ、大分悪いな。」と子爵が向うから声を懸けた。
「ええ、不可《いけな》いんですって、もうむずかしいの。」
 とお三輪は口惜《くや》しそうに、打附《ぶッつ》けて言ったのである。
「何の病気かね。」
 と言う、魯智深の頭は、この時も天井で大きく動いた。
「何んですか、性《しょう》がちっとも知れないんですって。」
 民弥は待構えてでもいたように、
「お医師《いしゃ》は廓《くるわ》のなんだろう、……そう言っちゃ悪いけれど。」
「いいえ、立派な国手
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