とさして、どうせ顕《あらわ》れるものなら真昼間《まっぴるま》おいでなさい、明白で可《い》い、と皆さんとも申合せていましたっけ。
 いや、こうなると、やっぱり暗い方が配合《うつり》が可《よ》うございます、身が入りますぜ、これから。」
 と言う、幹事雑貨店主の冴《さ》えた声が、キヤキヤと刻込《きざみこ》んで、響いて聞えて、声を聞く内だけ、その鼻の隆《たか》い、痩《や》せて面長《おもなが》なのが薄ら蒼《あお》く、頬のげっそりと影の黒いのが、ぶよぶよとした出処《でどこ》の定かならぬ、他愛の無い明《あかり》に映って、ちょっとでも句が切れると、はたと顔も見えぬほどになったのである。

       八

 灯《あかり》は水道尻のその瓦斯《がす》と、もう二ツ――一ツは、この二階から斜違《はすっかい》な、京町《きょうまち》の向う角の大きな青楼の三階の、真角《まっかど》一ツ目の小座敷の障子を二枚両方へ明放した裡《うち》に、青い、が、べっとりした蚊帳《かや》を釣って、行燈《あんどう》がある、それで。――夜目には縁も欄干《らんかん》も物色《うかが》われず、ただその映出《うつしだ》した処だけは、たとえば行燈の
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