どこの猫でしょう……近所のは、皆《みんな》たま(猫の名)のお友達で、私は声を知ってるんですけれど……可厭《いや》な声ね。きっと野良猫よ。」
それと極《きま》っては、内所《ないしょ》の飼猫でも、遊女《おいらん》の秘蔵でも、遣手《やりて》の懐児《ふところご》でも、町内の三毛、斑《ぶち》でも、何のと引手茶屋の娘の勢《いきおい》。お三輪は気軽に衝《つ》と立って、襟脚を白々と、結綿《ゆいわた》の赤い手絡《てがら》を障子の桟《さん》へ浮出したように窓を覗《のぞ》いた。
「遁《に》げてよ。もう居やしませんわ。」
一人の婦人が、はらはらと後毛《おくれげ》のかかった顔で、
「姉《ねえ》さん。」
「はーい、」と、呼ばれたのを嬉しそうな返事をする。
「閉めていらっしゃいな。」
で、蓮葉《はすは》にぴたり。
後に話合うと、階下《した》へ用達しになど、座を起《た》って通る時、その窓の前へ行《ゆ》くと、希代《きたい》にヒヤリとして風が冷い。処で、何心なく障子をスーツと閉めて行《ゆ》く、……帰りがけに見るとさらりと開《あ》いている。が、誰もそこへ坐るのでは無いから、そのままにして座に戻る。また別人が立つ、や
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