連《つらな》るばかり、近間《ちかま》に一ツも明《あかり》が見えぬ、陽気な座敷に、その窓ばかりが、はじめから妙に陰気で、電燈《でんき》の光も、いくらかずつそこへ吸取られそうな気勢《けはい》がしていた。
その物干の上と思う処で……
七
「ゴロロロロ、」
と濁った、太い、変に地響きのする声がした、――不思議は無い。猫が鳴いた事は、誰の耳にも聞えたが、場合が場合で、一同が言合わせたごとく、その四角な、大きな、真暗《まっくら》な穴の、遥《はる》かな底は、上野天王寺の森の黒雲が灰色の空に浸《にじ》んで湧上《わきあが》る、窓を見た。
フト寂しい顔をしたのもあるし、苦笑いをしたのもあり、中にはピクリと肩を動かした人もあった。
「三輪《みい》ちゃん、内の猫かい。」
民弥は、その途端に、ひたと身を寄せたお三輪に訊《たず》ねた。……遠慮をしながら、成《なる》たけこの男の傍《そば》に居て、先刻《さっき》から人々の談話《はなし》の、凄《すご》く可恐《おそろし》い処というと、密《そっ》と縋《すが》り縋り聞いていたのである。
「いいえ、内の猫は、この間死にました。」
「死んだ?」
「ええ、
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