火《あやしび》、陰火の数々。月夜の白張《しらはり》、宙釣りの丸行燈《まるあんどう》、九本の蝋燭《ろうそく》、四ツ目の提灯《ちょうちん》、蛇塚を走る稲妻、一軒家の棟を転がる人魂《ひとだま》、狼の口の弓張月、古戦場の火矢の幻。
怨念《おんねん》は大鰻《おおうなぎ》、古鯰《ふるなまず》、太岩魚《ふといわな》、化ける鳥は鷺《さぎ》、山鳥。声は梟《ふくろ》、山伏の吹く貝、磔場《はりつけば》の夜半《よわ》の竹法螺《たけぼら》、焼跡の呻唸声《うめきごえ》。
蛇ヶ窪の非常汽笛、箒川《ほうきがわ》の悲鳴などは、一座にまさしく聞いた人があって、その響《ひびき》も口から伝わる。……按摩《あんま》の白眼《しろめ》、癩坊《かったい》の鼻、婆々《ばばあ》の逆眉毛《さかまつげ》。気味の悪いのは、三本指、一本脚。
厠《かわや》を覗《のぞ》く尼も出れば、藪《やぶ》に蹲《しゃが》む癖の下女も出た。米屋の縄暖簾《なわのれん》を擦れ擦れに消える蒼《あお》い女房、矢絣《やがすり》の膝ばかりで掻巻《かいまき》の上から圧《お》す、顔の見えない番町のお嬢さん。干すと窄《すぼ》まる木場辺の渋蛇の目、死んだ頭《かしら》の火事見舞は
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