なさい。」と花和尚、この時、のさのさと座に戻る。
「お茶を入れかえて参ります。」
と、もう階子《はしご》の口。ちょっと留まって、
「そして才ちゃんに、御馳走をさせましょうね。兄さん、(吃驚《びっくり》したように)……あの、先生。」
「心得たもんですな。」と洋画家が、煙草《たばこ》の濃い烟《けむり》の中で。
「貴女方《あなたがた》の御庇《おかげ》です……敬意を表して、よく小老実《こまめ》に働きますよ。」と民弥が婦人だちを見向いて云う。と二人が一所に、言合わせたように美しく莞爾《にっこり》して、
「どういたしまして。」
「いや、事実ですよ……家はこんなでも、裁縫《おはり》に行《ゆ》く先方《さき》に、また、それぞれ朋《とも》だちがありましてな、それ引手茶屋の娘でも、大分|工合《ぐあい》が違って来ました。どうして滅多に客の世話なぞするのじゃありませんや。貴女がたの顔まで、ちゃんと心得ていて、先刻《さっき》も手前ちょっと階下《した》へ立違いますと、あちらが、浜谷さんで、こちらが、明座さんでしょう、なんてそう言います。
廓《くるわ》がはじめてだってお言いなさったのを聞いたと見えて、御見物なさい
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