が、わけが分らなくって不可《いけ》ません、芸者|衆《しゅ》なんか二階へ上げまして。」
と言《ことば》も極《きま》って含羞《はにか》んだ、紅《あか》い手絡《てがら》のしおらしさ。一人の婦人が斜めに振向き、手に持ったのをそのままに、撫子《なでしこ》に映《さ》す扇の影。
「いいえ。そして……ちとお遊びなさいませ。」
「はい、あの、後にどうぞ。」
と嬉しそうに莞爾《にっこり》しながら、
「あの、明る過ぎましたら電燈《でんき》をお消し下さいましな、燭台《しょくだい》をそこへ出しておきました。」
と幹事に言う。雑貨店主が、
「難有《ありがと》う、よくお心の着きます事で。」
「あら、可厭《いや》だ。」……と蓮葉《はすは》になる。
「二ツ、」
と一人高らかに呼《よば》わった。……芸者のと、(可厭だ)が二度目、という意味だけれども、娘には気が着かぬ。
「え?」
民弥が静《しずか》に振返って、
「三輪《みい》ちゃんの年紀《とし》は二十《はたち》かって?」
「あら、可厭だ。」
「三つ!」
「じゃ、三十かってさ。」と雑貨店主が莞爾《にっこり》する。
「知らないわ。」
「まあまあ、可《い》いわ、お話し
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