」
「(あら可厭《いや》だ)は酷《ひど》いな。」
五
「おおおお、三人が手を曳《ひき》ッこで歩行《ある》いて行《ゆ》きます……仲の町も人通りが少いなあ、どうじゃろう、景気の悪い。ちらりほらりで軒行燈《のきあんどう》に影が映る、――海老屋《えびや》の表は真暗《まっくら》だ。
ああ、揃って大時計の前へ立佇《たちどま》った……いや三階でちょっとお辞儀をするわ。薄暗い処へ朦朧《もうろう》と胸高な扱帯《しごき》か何かで、寂《さみ》しそうに露《あらわ》れたのが、しょんぼりと空から瞰下《みお》ろしているらしい。」
と円い腕を、欄干《てすり》が挫《ひしゃ》げそうにのッしと支《つ》いて、魯智深の腹がたぶりと乗出す……
「どこだ、どれ、」
と向返る子爵の頭へ、さそくに、ずずんと身を返したが、その割に気の軽さ。突然《いきなり》見越入道で、蔽《おお》われ掛《かか》って、
「ももんがあ! はッはッはッ。」
「失礼、只今《ただいま》は、」
と、お三輪が湯を注《さ》しに来合わせて、特に婦人客《おんなきゃく》の背後《うしろ》へ来て、極《きまり》の悪そうに手を支《つ》いた。
「才《さあ》ちゃん
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