笑ったのが聞えた。駒下駄《こまげた》の音が三つ四つ。
「覚えていらっしゃいよ。」
「お喧《やかま》しゅう……」
魯智深は、ずかずかと座を起《た》って、のそりと欄干《てすり》に腹を持たせて、幕を透かして通《とおり》を瞰下《みおろ》し、
「やあ、鮮麗《あざやか》なり、おらが姉《ねえ》さん三人ござる。」
「君、君、その異形《いぎょう》なのを空中へ顕《あらわ》すと、可哀相《かわいそう》に目を廻すよ。」と言いながら、一人が、下からまた差覗《さしのぞ》いた。
「家《うち》の娘かね。」
と子爵が訊《き》く。差向いに居た民弥が、
「いいえ。」
「何です。」
「やっぱり通り魔の類《たぐい》でしょうな。」
「しかし、不意だからちょっと驚きましたよ。」とその洋画家が……ちょうど俯向《うつむ》いて巻莨《まきたばこ》をつけていた処、不意を食《くら》った眼鏡が晃《きら》つく。
当夜の幹事が苦笑いして、
「近所の若い妓《こ》どもです……御存じの立旦形《たておやま》が一人、今夜来ます筈《はず》でしたが、急用で伊勢へ参って欠席しました。階下《した》で担いだんでしょう。密《そっ》と覗《のぞ》きに……」
「道理こそ。
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