に手をきちんとして言う。
「私もはじめてです。両側はそれでも画《え》に描いたようですな。」と岩木という洋画家が応じた。
「御同然で、私はそれでも、首尾よく間違えずに来たですよ。北廓《ほっかく》だというから、何でも北へ北へと見当を着けるつもりで、宅から磁石を用意に及んだものです。」と云う堀子爵が、ぞんざいな浴衣がけの、ちょっきり結びの兵児帯《へこおび》に搦《から》んだ黄金鎖《きんぐさり》には、磁石が着いていも何にもせぬ。
花和尚がその諸膚脱《もろはだぬぎ》の脇の下を、自分の手で擽《くすぐ》るように、ぐいと緊《し》めて腹を揺《ゆす》った。
「そろそろ怪談になりますわ。」
確か、その時分であった。壇の上口《あがりくち》に気勢《けはい》がすると、潰《つぶ》しの島田が糶上《せりあが》ったように、欄干《てすり》隠れに、少《わか》いのが密《そっ》と覗込《のぞきこ》んで、
「あら、可厭《いや》だ。」
と一つ婀娜《あだ》な声を、きらりと銀の平打《ひらうち》に搦めて投込んだ、と思うが疾《はや》いが、ばたばたと階下《した》へ駆下りたが、
「嘘、居やしないわ。」と高い調子。
二言、三言、続いて花やかに
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