何々などの雑誌で、写真も見れば、名も読んで知った方。
 で、こんな場所は、何の見物にも、つい足踏《あしぶみ》をした事の無いのが多い。が、その人たちも、誰も会場が吉原というのを厭《いと》わず、中にはかえって土地に興味《おもしろみ》を持って、到着帳に記《つ》いたのもある。
「吉野橋で電車を下りますまでは無事だったんですよ。」
 とそれについて婦人の一人、浜谷蘭子《はまやらんこ》が言出すと、可恐《おそろし》く気の早いのが居て、
「ええ、何か出ましたかな。」
「まさか、」
 と手巾《ハンケチ》をちょっと口に当てて、瞼《まぶた》をほんのりと笑顔になって、
「お化《ばけ》が貴下《あなた》、わざわざ迎いに出はしませんよ。方角が分りませんもの。……交番がござんしたから、――伺いますが、水道尻はどう参りましょうかって聞いたんです。巡査《おまわり》さんが真面目《まじめ》な顔をして、
(水道はその四角《よつかど》の処にあります。)って丁寧に教えられて、困ったんです。」
「水を飲みたくって、それで尋ねたんだと思ったんでしょうよ。」とその連《つれ》だったもう一人の、明座種子《あかざたねこ》が意気な姿で、そして膝
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