上げるような杉の大木の茂った中から、スーと音がして、ばったり足許へ落ちて来たものがあるの。常燈明の細い灯《あかり》で、ちょいと見ると、鳥なんですって、死んだのだわねえ、もう水を浴びたように悚然《ぞっ》として、何の鳥だかよくも見なかったけれど、謎々よ、……解くと、弟は助からないって事になる……その時は落胆《がっかり》して、苔《こけ》の生えた石燈籠《いしどうろう》につかまって、しばらく泣きましたって、姉さんがね、……それでも、一念が届いて弟が助かったんですから……思い置く事はありません、――とさ。
ああ、きっとそれじゃ、……その時治らない弟さんの身代りに、自分がお約束をしたんだろう。それだから、ああやって覚悟をして死んで行《ゆ》くのを待っておいでだ。事によったら、月日なんかも、その時|極《き》めて頼んだのかも分らない、可哀相だ、つて才ちゃんも泣いていました。
そしてね、今度の世は、妹に生れて来て甘えよう、私は甘えるものが無い。弟は可羨《うらやま》しい、あんな大きななりをして、私に甘ったれますもの。でも、それが可愛くって殺されない。前《さき》へ死ぬ方がまだ増《まし》だ、あの子は男だから堪《こら》えるでしょう、……後へ残っちゃ、私は婦《おんな》で我慢が出来ないって言ったんですとさ。……ちょいとどうしましょう。私、涙が出てよ。……
どうかして治らないものでしょうか。誰方《どなた》か、この中に、お医者様の豪《えら》い方はいらっしゃらなくって、ええ、皆さん。」
一座|寂然《ひっそり》した。
「まあ、」
「ねえ……」
と、蘭子と種子が言交わす。
「弱ったな、……それは、」とちょいと間を置いてから、子爵が呟《つぶや》いたばかりであった。
「時に、」
と幹事が口を開いて、
「佐川さん、」
「は、」
と顔を上げたが、民弥はなぜかすくむようになって、身体《からだ》を堅く俯向《うつむ》いてそれまで居た。
「お話しの続きです。――貴下《あなた》がその今日途中でその、何か、どうかなすったという……それから起ったんですな、三輪ちゃんの今の話は。」
「そうでしたね。」とぼやりと答える。
「その……近所のお産のありそうな処は無いかって、何か、そういったような事から。」
「ええ、」
とただ、腕を拱《こまぬ》く。
「どういう事で、それは、まず……」
「一向、詰《つま》らない、何、別に、」と
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