いき》な夫人があつて、其の方《かた》が私を飼つて、口移《くちうつ》しに餌《え》を飼つたんです。私は接吻《キッス》をする鳥でせう。而《そ》してね、先生の許《とこ》へ贈りものになつて、私は行つたんです。
 先生は私に口移しが出来ないの……然《そ》うすると、其の夫人を恋するやうに成るからつて。
 私は中に立つて、其の夫人と、先生とに接吻《キッス》をさせるために生れました。而《そ》して、遙々《はるばる》東印度《ひがしインド》から渡つて来たのに……口惜《くやし》いわね。
 其で居て、傍《そば》に置いては、つい口をつけないでは居られないやうな気に成るからつて、私を放したんです。
 雀《すずめ》や燕《つばめ》でないのだもの、鸚鵡が町家《まちや》の屋根にでも居て御覧なさい、其こそ世間騒がせだから、こゝへ来て引籠《ひきこも》つて、先生の小説ばかり読んで居ます。
 貴下《あなた》、嘘だと思ふんなら、其の証拠を見せませう。」
 と不思議な美しい其の餅《もち》を、ト唇に受けたと思ふと、沢の手は取られたのである。
 で、ぐいと引寄せられた。
「恁《こ》うして、さ。」
 と、櫛巻《くしまき》の其の水々《みずみず》
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