母《たのも》しいのねえ、貴下《あなた》は……えゝ、知つて居ますとも、多日《ひさしく》御一所《ごいっしょ》に居たんですもの。」
「では、あの、奥様。」
 と、片手を支《つ》きつゝ、夢を見るやうな顔して云ふ。
「まあ、嬉しい!」
 と派手な声の、あとが消えて、じり/\と身を緊《し》めた、と思ふと、ほろりとした。
「奥様と云つて下すつたお礼に、いゝものを御馳走《ごちそう》しませう……めしあがれ。」
 と云ふ。最《も》う晴《はれ》やかに成つて、差寄《さしよ》せる盆に折敷《おりし》いた白紙《しらかみ》の上に乗つたのは、たとへば親指の尖《さき》ばかり、名も知れぬ鳥の卵かと思ふもの……
「栃《とち》の実の餅《もち》よ。」
 同じものを、来る途《みち》の爺《じじい》が茶店《ちゃみせ》でも売つて居た。が、其の形は宛然《まるで》違ふ。
「貴下《あなた》、気味が悪いんでせう……」
 と顔を見て又|微笑《ほほえ》みつゝ、
「真個《ほんとう》の事を言ひませうか、私は人間ではないの。」
「えゝ!」
「鸚鵡《おうむ》なの、」
「…………」
「真白な鸚鵡の鳥なの。此の御本《ごほん》の先生を、最《も》う其は……贔屓《ひ
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