貴婦人
泉鏡花

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)焙《ほう》じる

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)頃|芬《ぷん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+發」、105−14]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うと/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

        一

 番茶を焙《ほう》じるらしい、いゝ香気《におい》が、真夜中とも思ふ頃|芬《ぷん》としたので、うと/\としたやうだつた沢《さわ》は、はつきりと目が覚めた。
 随分《ずいぶん》遙々《はるばる》の旅だつたけれども、時計と云ふものを持たないので、何時頃か、其《それ》は分らぬ。尤《もっと》も村里《むらざと》を遠く離れた峠《とうげ》の宿で、鐘の声など聞えやうが無い。こつ/\と石を載せた、板葺屋根《いたぶきやね》も、松高き裏の峰も、今は、渓河《たにがわ》の流れの音も寂《しん》として、何も聞えず、時々|颯《さっ》と音を立
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