ばせ》を合せた。
「最《も》う霜《しも》が下りるのよ、炉の処《ところ》で焚火《たきび》をしませうね。」

        五

 美女《たおやめ》は炉を囲んで、少く語つて多く聞いた。而《そ》して、沢が其の故郷《ふるさと》の話をするのを、もの珍らしく喜んだのである。
 沢は、隔てなく身の上さへ話したが、しかし、十有余年《じゅうゆうよねん》崇拝する、都の文学者|某君《なにがしぎみ》の許《もと》へ、宿望《しゅくぼう》の入門が叶《かな》つて、其のために急いで上京する次第は、何故《なぜ》か、天機《てんき》を洩《も》らすと云ふやうにも思はれるし、又余り縁遠《えんどお》い、そんな事は分るまいと思つて言はなかつた。
 蔵屋の門《かど》の戸が閉《しま》つて、山が月ばかり、真蒼《まっさお》に成つた時、此の鍵屋の母娘《おやこ》が帰つた。例の小女《こおんな》は其の娘で。
 二人が帰つてから、寝床は二階の十畳の広間へ、母親が設けてくれて、其処《そこ》へ寝た――丁《ちょう》ど真夜中過ぎである。……
 枕を削る山颪《やまおろし》は、激しく板戸《いたど》を挫《ひし》ぐばかり、髪を蓬《おどろ》に、藍色《あいいろ》の面《
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