》だらけにて、ボタン二つ離れたる洋服の胸を反らす。太きニッケル製の時計の紐《ひも》がだらりとあり。
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村越 さあ、どうぞ。
七左 御免、真平《まっぴら》御免。
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腰を屈《かが》め、摺足《すりあし》にて、撫子の前を通り、すすむる蒲団《ふとん》の座に、がっきと着く。
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撫子 ようおいで遊ばしました。
七左 ははっ、奥さん。(と倒《さかさ》になる。)
撫子 (手を支《つか》えたるまま、つつと退《すさ》る。)
村越 父、母の御懇意。伯父さん同然な方だ。――高原さん……それは余所《よそ》の娘です。
七左 (高らかに笑う)はッはッはッ、いずれ、そりゃ、そりゃ、いずれ、はッはッはッはッ。一度は余所の娘御には相違ないてな。いや、婆《ばばあ》どのも、かげながら伝え聞いて申しておる。村越の御子息が、目《ま》のあたり立身出世は格別じゃ、が、就中《なかんずく》、豪《えら》いのはこの働きじゃ。万一この手廻しがのうてみさっしゃい
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