、空耳でも、僻耳《ひがみみ》でも、奥さん、と言われたさに、いい気になって返事をして、確《たしか》に罰が当ったんです……ですが、この円髷《まるまげ》は言訳をするんじゃありませんけれど、そんな気なのではありません。一生涯|他《ほか》へはお嫁入りをしない覚悟、私は尼になった気です。……(涙ぐみつつ)もう、今からは怪我《けが》にだって、奥さんなんぞとおっしゃるなよ。おりくさん、おそのさん、更《あらた》めてお詫をします。
りく それでも、やっぱり奥さんですわ。ねえ、おそのさん。
その ええ、そうよ。
撫子 いいえ、いま思知ったんです、まったく罰が当りますから、私を可哀想《かわいそう》だとお思いなすったら、このお邸のおさんどん、いくや、いくや、とおっしゃってね、豆腐屋、薪屋《まきや》の方角をお教えなすって下さいまし。何にも知らない不束《ふつつか》なものですから、余所《よそ》の女中に虐《いじ》められたり、毛色の変った見世物《みせもの》だと、邸町《やしきまち》の犬に吠《ほ》えられましたら、せめて、貴女方《あなたがた》が御贔屓《ごひいき》に、私を庇《かば》って下さいな、後生ですわ、ええ。
その 私どうし
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