どちらから。
白糸 不案内のものですから、お邸が間違いますと失礼です。この村越様は、旦那様のお名は何とおっしゃいますえ。
その はい、お名……
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云いかけて引込《ひっこ》むと、窺《うかが》いいたる、おりくに顔を合せる。
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りく 私、知っててよ。(かわって出づ)いらっしゃいまし。
白糸 おや。(と軽く)
りく あの、お訊《たず》ねになりました、旦那様のお名は、欣弥様でございますの。
白糸 はあ、そしてお年紀《とし》は……お幾つ。
りく あのう、二十八九くらい。
白糸 くらいでは不可《いけ》ませんよ。おんなじお名でおんなじ年くらいでも……の、あの、あるの、とないの、とは大変、大変な違いなんですから。
りく あの、何の、あるのと、ないのと、なんです。
白糸 え
りく 何の、あるのと、ないの、とですの?
白糸 お髯《ひげ》。
りく ほほほ、生やしていらっしゃるわ。
白糸 また、それでも、違うと不可《いけな》い。くらいでなし、ちゃんと、お年紀を伺いとうござんすね。
りく へい。

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