らせり。
 たちまち進み来たれる紳士は帽を脱して、ボタンの二所|失《と》れたる茶羅紗《ちゃらしゃ》のチョッキに、水晶の小印《こいん》を垂下《ぶらさ》げたるニッケル鍍《めっき》の※[#「金+樔のつくり」、第4水準2−91−32]《くさり》を繋《か》けて、柱に靠《もた》れたる役員の前に頭《かしら》を下げぬ。
「その後は御機嫌《ごきげん》よろしゅう。あいかわらずお達者で……」
 役員は狼狽《ろうばい》して身を正し、奪うがごとくその味噌漉《みそこ》し帽子を脱げり。
「やあこれは! 欣様だったねえ。どうもさっきから肖《に》ているとは思ったけれど、えらくりっぱになったもんだから。……しかしおまえさんも無事で、そうしてまありっぱになんなすって結構だ。あれからじきに東京へ行って、勉強しているということは聞いていたっけが、ああ、見上げたもんだ。そうして勉強してきたのは、法律かい。法律はいいね。おまえさんは好きだった。好きこそものの上手《じょうず》なりけれ、うん、それはよかった。ああ、なるほど、金沢の裁判所に……うむ、検事代理というのかい」
 老いたる役員はわが子の出世を看《み》るがごとく懽《よろこ》べり
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