護を頼まれたってなんだって管《かま》やしません。おまえが悪い、ありていに白状しな、と出刃打ちの野郎を極《き》め付けてやりまさあ」
 渠の鼻息はすこぶる暴《あら》らかなりき。
「そんな弁護士をだれが頼むものか」
 と弁者は仰ぎて笑えり。乗り合いは、威儀ある紳士とその老母を除きて、ことごとく大笑せり。笑い寝《や》むころ馬車は石動に着きぬ。車を下らんとて弁者は席を起《た》てり。甲と乙とは渠に向かいて慇懃《いんぎん》に一揖《いちゆう》して、
「おかげでおもしろうございました」
「どうも旦那《だんな》ありがとう存じました」
 弁者は得々として、
「おまえさんがたも間《ひま》があったら、公判を行ってごらんなさい」
「こりゃ芝居よりおもしろいでございましょう」
 乗客は忙々《いそがわしく》下車して、思い思いに別れぬ。最後に威儀ある紳士はその母の手を執りて扶《たす》け下ろしつつ、
「あぶのうございますよ。はい、これからは腕車《くるま》でございます」
 渠らの入りたる建場の茶屋の入り口に、馬車会社の老いたる役員は佇《たたず》めり。渠は何気なく紳士の顔を見たりしが、にわかにわれを忘れてその瞳《ひとみ》を凝
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