の老母とは、顔を見合わせて迭《たが》いに色を動かせり。渠は質素なる黒の紋着きの羽織に、節仙台《ふしせんだい》の袴《はかま》を穿《は》きて、その髭は弁者より麗しきものなりき。渠は紳士というべき服装《いでたち》にはあらざるなり。されどもその相貌《そうぼう》とその髭とは、多く得《う》べからざる紳士の風采《ふうさい》を備えたり。
 弁者は仔細《しさい》らしく煙を吹きて、
「滝の白糸というのはご存じでしょうな」
 乙者は頷《うなず》き頷き、
「知っとります段か、富山で見ました大評判の美艶《うつくしい》ので」
「さよう。そこでそのころ福井の方で興行中のかの女を喚び出して対審に及んだところが、出刃打ちの申し立てには、その片袖は、白糸の金を奪《と》るときに、おおかた断《ちぎ》られたのであろうが、自分は知らずに遁《に》げたので、出刃庖丁とてもそのとおり、女を脅《おど》すために持っていたのを、慌《あわ》てて忘れて来たのであるから、たといその二品が桐田の家にあろうとも、こっちの知ったことではないと、理窟《りくつ》には合わんけれど、やつはまずそう言い張るのだ。そこで女が、そのとおりだと言えば、人殺しは出刃打ち
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