ろうという物はそればかりではない。死骸《しがい》のかたわらに出刃庖丁《でばぼうちょう》が捨ててあった。柄《え》の所に片仮名《かたかな》のテの字の焼き印のある、これを調べると、出刃打ちの用《つか》っていた道具だ。それに今の片袖がそいつの浴衣に差違《ちがい》ないので、まず犯罪人はこいつとだれも目を着けたさ」
 旅商人は膝《ひざ》を進めつ。
「へえ、それじゃそいつじゃないんでございますかい」
 弁者はたちまち手を抗《あ》げてこれを抑《おさ》えぬ。
「まあお聞きなさい。ところで出刃打ちの白状には、いかにも賊を働きました。賊は働いたが、けっして人殺しをした覚えはございません。奪《と》りましたのは水芸の滝の白糸という者の金で、桐田の門《かど》は通過《とおり》もしませんっ」
「はて、ねえ」と甲者は眉《まゆ》を動かして、弁者を凝視《みつ》めたり、乙者は黙して考えぬ。ますますその後段を渇望せる乗り合いは、順繰りに席を進めて、弁者に近づかんとせり。渠はそのとき巻莨《まきたばこ》を取り出だして、脣《くちびる》に湿しつつ、
「話はこれからだ」
 左側《さそく》の席の前端《まえはし》に並びたる、威儀ある紳士とそ
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