じゃなくって、ほかにあるとなるのだ」
 甲者は頬杖《ほおづえ》※[#「てへん+主」、第3水準1−84−73]《つ》きたりし面《おもて》を外《はず》して、弁者の前に差し寄せつつ、
「へえへえ、そうして女はなんと申しました」
「ぜひおまえさんに逢いたいと言ったね」
 思いも寄らぬ弁者の好謔《こうぎゃく》は、大いに一場の笑いを博せり。渠もやむなく打ち笑いぬ。
「ところが金子《かね》を奪られた覚えなどはない、と女は言うのだ。出刃打ちは、なんでも奪ったという。偸児《どろぼう》のほうから奪ったというのに、奪られたほうでは奪られないと言い張る。なんだか大岡《おおおか》政談にでもありそうな話さ」
「これにはだいぶ事情《わけ》がありそうです」
 乙者は首を捻《ひね》りつつ腕を拱《こまぬ》けり。例の「なるほど」は、談《はなし》のますます佳境に入るを楽しめる気色《けしき》にて、
「なるほど、これだから裁判はむずかしい! へえ、それからどう致《いた》しました」
 傍聴者は声を斂《おさ》めていよいよ耳を傾けぬ。威儀ある紳士とその老母とは最も粛然として死黙せり。
 弁者はなおも語《ことば》を継ぎぬ。
「実にこれは
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