奇にして、その心また奇なりといえども、いまだこの言の奇なるには如《し》かず、と馭者は思えり。
「それじゃどこにいるのだ」
「あすこさ」と美人は磧《かわら》の小屋を指させり。
 馭者はそなたを望みて、
「あすことは?」
「見世物小屋さ」と白糸は異様の微笑《えみ》を含みぬ。
「ははあ、見世物小屋とは異《かわ》っている」
 馭者は心ひそかに驚きたるなり。渠はもとよりこの女をもって良家の女子とは思い懸《か》けざりき、寡《すく》なくとも、海に山に五百年の怪物たるを看破したりけれども、見世物小屋に起き臥しせる乞食芸人の徒ならんとは、実に意表に出でたりしなり。とはいえども渠はさあらぬ体に答えたりき。白糸は渠の心を酌《く》みておのれを嘲《あざけ》りぬ。
「あんまり異《かわ》りすぎてるわね」
「見世物の三味線《しゃみせん》でも弾《ひ》いているのかい」
「これでも太夫元《たゆうもと》さ。太夫だけになお悪いかもしれない」
 馭者は軽侮《けいぶ》の色をも露《あら》わさず、
「はあ、太夫! なんの太夫?」
「無官の太夫じゃない、水芸の太夫さ。あんまり聞いておくれでないよ、面目《きまり》が悪いからさ」
 馭者はま
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