」
「それはいかん! 自分の所望《のぞみ》を遂げるために恩を受けて、その望みを果たしたで、報恩《おんがえし》になるものではない。それはただ恩に対するところのわが身だけの義務というもので、けっして恩人に対する義務ではない」
「でも私が承知ならいいじゃありませんかね」
「いくらおまえさんが承知でも、私が不承知だ」
「おや、まあ、いやにむずかしいのね」
かく言いつつ美人は微笑《ほほえ》みぬ。
「いや、理屈《りくつ》を言うわけではないがね、目的を達するのを報恩《おんがえし》といえば、乞食《こじき》も同然だ。乞食が銭をもらう、それで食っていく、渠らの目的は食うのだ。食っていけるからそれが方々で銭を乞《もら》った報恩《おんがえし》になるとはいわれまい。私は馬方こそするが、まだ乞食はしたくない。もとよりお志は受けたいのは山々だ。どうか、ねえ、受けられるようにして受けさしてください。すれば、私は喜んで受ける。さもなければ、せっかくだけれどお断わり申そう」
とみには返す語《ことば》もなくて、白糸は頭《かしら》を低《た》れたりしが、やがて馭者の面《おもて》を見るがごとく見ざるがごとく※[#「(虍/助の
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