下げたり。
「なんですねえ、いやに改まってさ。そう、そんなら私の志を受けてくださるの?」
美人は喜色満面に溢《あふ》るるばかりなり。
「お世話になります」
「いやだよ、もう金さん、そんなていねいな語《ことば》を遣《つか》われると、私は気が逼《つま》るから、やっぱり書生言葉を遣ってくださいよ。ほんとに凛々《りり》しくって、私は書生言葉は大好きさ」
「恩人に向かって済まんけれども、それじゃぞんざいな言葉を遣おう」
「ああ、それがいいんですよ」
「しかしね、ここに一つ窮《こま》ったのは、私が東京へ行ってしまうと、母親がひとりで……」
「それは御心配なく。及ばずながら私がね……」
馭者は夢みる心地《ここち》しつつ耳を傾けたり。白糸は誠を面《おもて》に露《あら》わして、
「きっとお世話をしますから」
「いや、どうも重ね重ね、それでは実に済まん。私もこの報恩《おんがえし》には、おまえさんのために力の及ぶだけのことはしなければならんが、何かお所望《のぞみ》はありませんか」
「だからさ、私の所望はおまえさんの希望が※[#「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1−84−56]《かな》いさえすれば……
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