になって、実は双方とも商売のじゃまになるのだ。そこで、会社のほうでは穏便《おんびん》がいいというので、むろん片手落ちの裁判だけれど、私が因果を含められて、雇を解かれたのさ」
白糸は身に沁《し》む夜風にわれとわが身を抱《いだ》きて、
「まあ、おきのどくだったねえ」
渠は慰むる語《ことば》なきがごとき面色《おももち》なりき。馭者は冷笑《あざわら》いて、
「なあに、高が馬方だ」
「けれどもさ、まことにおきのどくなことをしたねえ、いわば私のためだもの」
美人は愁然として腕を拱《こまぬ》きぬ。馭者はまじめに、
「その代わり煙管の掃除をしてもらった」
「あら、冗談じゃないよ、この人は。そうしておまえさんこれからどうするつもりなの?」
「どうといって、やっぱり食う算段さ。高岡に彷徨《ぶらつ》いていたって始まらんので、金沢には士官がいるから、馬丁《べっとう》の口でもあるだろうと思って、探《さが》しに出て来た。今日《きょう》も朝から一日|奔走《かけある》いたので、すっかり憊《くたび》れてしまって、晩方|一風呂《ひとっぷろ》入《はい》ったところが、暑くて寝られんから、ぶらぶら納涼《すずみ》に出掛けて
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