を一人世話してあげようか」
馭者は傲然《ごうぜん》として、
「そんなものは要《い》らんよ」
「おや、ご免なさいまし。さあ、お掃除《そうじ》ができたから、一服|戴《いただ》こう」
白糸はまず二服を吃《きっ》して、三服目を馭者に、
「あい、上げましょう」
「これはありがとう。ああよく通ったね」
「また壅《つま》ったときは、いつでも持ってお出でなさい」
大口|開《あ》いて馭者は心快《こころよ》げに笑えり。白糸は再び煙管を仮《か》りて、のどかに烟《けぶり》を吹きつつ、
「今の顛末《はなし》というのを聞かしてくださいな」
馭者は頷《うなず》きて、立てりし態《すがた》を変えて、斜めに欄干に倚《よ》り、
「あのとき、あんな乱暴を行《や》って、とうとう人力車を乗っ越したのはよかったが、きゃつらはあれを非常に口惜《くや》しがってね、会社へむずかしい掛け合いを始めたのだ」
美人は眉《まゆ》を昂《あ》げて、
「なんだってまた?」
「何もかにも理窟《りくつ》なんぞはありゃせん。あの一件を根に持って、喧嘩《けんか》を仕掛けに来たのさね」
「うむ、生意気な! どうしたい?」
「相手になると、事がめんどう
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