るぐる巻きにせり。
「ああこれで清々した。二十四にもなって高島田に厚化粧でもあるまい」
かくて白糸は水を聴《き》き、月を望み、夜色の幽静を賞して、ようやく橋の半ばを過ぎぬ。渠はたちまちのんきなる人の姿を認めぬ。何者かこれ、天地を枕衾《ちんきん》として露下月前に快眠せる漢子《おのこ》は、数歩のうちにありて※[#「鼻+句」、第4水準2−94−72]《いびき》を立てつ。
「おや! いい気なものだよ。だれだい、新じゃないか」
囃子方《はやしかた》に新という者あり。宵より出《い》でていまだ小屋に還《かえ》らざれば、それかと白糸は間近に寄りて、男の寝顔を※[#「(虍/助のへん)+見」、第4水準2−88−41]《のぞ》きたり。
新はいまだかくのごとくのんきならざるなり。渠ははたして新にはあらざりき。新の相貌《そうぼう》はかくのごとく威儀あるものにあらざるなり。渠は千の新を合わせて、なおかつ勝《まさ》ること千の新なるべき異常の面魂《つらだましい》なりき。
その眉《まゆ》は長くこまやかに、睡《ねむ》れる眸子《まなじり》も凛如《りんじょ》として、正しく結びたる脣《くちびる》は、夢中も放心せざる渠が
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