、ようなんですぐらいだったら、私《わたくし》もかような不埒《ふらち》、不心得、失礼なことはいたさなかったろうと思います。
確《たしか》に御縁着きになる。……双方の御親属に向って、御縁女の純潔を更《あらた》めて確証いたします。室内の方々も、願わくはこの令嬢のために保証にお立ちを願いたいのです。
余り唐突な狼藉《ろうぜき》ですから、何かその縁組について、私《わたくし》のために、意趣遺恨でもお受けになるような前事が有るかとお思われになっては、なおこの上にも身の置き処がありませんから――」
七
「実に、寸毫《すんごう》[#ルビの「すんごう」は底本では「すんがう」]といえども意趣遺恨はありません。けれども、未練と、執着《しゅうぢゃく》と、愚癡《ぐち》と、卑劣と、悪趣と、怨念《おんねん》と、もっと直截《ちょくせつ》に申せば、狂乱があったのです。
狂気《きちがい》が。」
と吻《ほっ》と息して、……
「汽車の室内で隣合って一目見た、早やたちまち、次か、二ツ目か、少くともその次の駅では、人妻におなりになる。プラットフォームも婚礼に出迎《でむかい》の人橋で、直ちに婿君の家の廊下を
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