そして、しかと腕を拱《こまぬ》く。
女は頤《おとがい》深く、優しらしい眉が前髪に透いて、ただ差俯向《さしうつむ》く。
六
「この次で下車《おり》るのじゃに。」
となぜか、わけも知らない娘を躾《たしな》めるように云って、片目を男にじろりと向け直して、
「何てまあ、馬鹿々々しい。」
と当着《あてつ》けるように言った。
が、まだ二人ともなにも言わなかった時、連《つれ》と目配せをしながら、赤ら顔の継母《ままおや》は更《あらた》めて、男の前にわざとらしく小腰、――と云っても大きい――を屈《かが》めた。
突如《いきなり》噛着《かみつ》き兼ねない剣幕だったのが、飜《ひるがえ》ってこの慇懃《いんぎん》な態度に出たのは、人は須《すべか》らく渠等《かれら》に対して洋服を着るべきである。
赤ら顔は悪く切口上で、
「旦那、どちらの麁※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]《そそう》か存じましないけれども、で、ございますね。飛んだことでございます。この娘は嫁にやります大切な身体《からだ》でございます。はい、鍵をお出し下さいまし、鍵をでございますな、旦那。」
声が眉間《みけん》を
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