仁《おやじ》も居たが――揃って車外の立合に会釈した、いずれも縁女を送って来た連中らしい。
「あのや、あ、ちょっと御挨拶を。」
とその時まで、肩が痛みはしないかと、見る目も気の毒らしいまで身を緊めた裾模様の紫紺《しこん》――この方が適当であった。前には濃い紫と云ったけれども――肩に手を掛けたのは、近頃|流行《はや》る半コオトを幅広に着た、横肥《よこぶと》りのした五十|恰好《かっこう》。骨組の逞《たく》ましい、この女の足袋は、だふついて汚れていた……赤ら顔の片目|眇《めっかち》で、その眇の方をト上へ向けて渋《しぶ》のついた薄毛の円髷《まるまげ》を斜向《はすっかい》に、頤《あご》を引曲《ひんま》げるようにして、嫁御が俯向《うつむ》けの島田からはじめて、室内を白目沢山で、虻《あぶ》の飛ぶように、じろじろと飛廻しに※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》していたのが、肥った膝で立ちざまにそうして声を掛けた。
五
少し揺《ゆす》るようにした。
指に平打《ひらうち》の黄金《きん》の太く逞《たく》ましいのを嵌《は》めていた。
肖《に》も着かぬが、乳母ではない、継《
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