、畑《はた》の薄《すすき》も、薄に交《まじわ》る紅《くれない》の木の葉も、紫|籠《こ》めた野末の霧も、霧を刷《は》いた山々も、皆|嫁《ゆ》く人の背景であった。迎うるごとく、送るがごとく、窓に燃《もゆ》るがごとく見え初《そ》めた妙義の錦葉《もみじ》と、蒼空《あおぞら》の雲のちらちらと白いのも、ために、紅《べに》、白粉《おしろい》の粧《よそおい》を助けるがごとくであった。
一つ、次の最初の停車場《ステイション》へ着いた時、――下りるものはなかった――私の居た側の、出入り口の窓へ、五ツ六ツ、土地のものらしい鄙《ひな》めいた男女《なんにょ》の顔が押累《おしかさな》って室を覗《のぞ》いた。
累《かさな》りあふれて、ひょこひょこと瓜《うり》の転がる体《てい》に、次から次へ、また二ツ三ツ頭が来て、額で覗込《のぞきこ》む。
私の窓にも一つ来た。
と見ると、板戸に凭《もた》れていた羽織袴が、
「やあ!」
と耳の許《とこ》へ、山高帽を仰向《あおむ》けに脱いで、礼をしたのに続いて、四五人一斉に立った。中には、袴らしい風呂敷包《ふろしきづつみ》を大《おおき》な懐中に入れて、茶紬《ちゃつむぎ》を着た親
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