合った、そこへ、艶麗《あでやか》な女が一人腰を掛けたのである。
 待て、ただ艶麗な、と云うとどこか世話でいて、やや婀娜《あだ》めく。
 内端《うちわ》に、品よく、高尚と云おう。
 前挿《まえざし》、中挿《なかざし》、鼈甲《べっこう》の照りの美しい、華奢《きゃしゃ》な姿に重そうなその櫛笄《くしこうがい》に対しても、のん気に婀娜だなどと云ってはなるまい。

       四

 一目見ても知れる、濃い紫の紋着《もんつき》で、白襟、緋《ひ》の長襦袢《ながじゅばん》。水の垂りそうな、しかしその貞淑を思わせる初々しい、高等な高島田に、鼈甲を端正《きちん》と堅く挿した風采《とりなり》は、桃の小道を駕籠《かご》で遣《や》りたい。嫁に行《ゆ》こうとする女であった。……
 指の細く白いのに、紅《あか》いと、緑なのと、指環《ゆびわ》二つ嵌《は》めた手を下に、三指ついた状《さま》に、裾模様《すそもよう》の松の葉に、玉の折鶴のように組合せて、褄《つま》を深く正しく居ても、溢《こぼ》るる裳《もすそ》の紅《くれない》を、しめて、踏みくぐみの雪の羽二重《はぶたえ》足袋。幽《かすか》に震えるような身を緊《し》めた爪先
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